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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(行ツ)19号 判決

上告人 小幡新一

被上告人 国 外一名

訴訟代理人 貞家克己 外三名

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人鈴木正路の上告理由第二点について。

論旨は、要するに、本件において買収令書の交付に代えてされた公告は、「買収内容の原本は農地部に保管しあり。」とするのみで、自作農創設特別措置法(以下、自創法という。)九条所定の要件を具備しないものであるにもかかわらず、原判決が右公告によつてされた本件買収処分を無効でないとしたのは、同条の解釈適用を誤つたものである、というのである。

よつて按ずるに、自創法九条によれば、当該農地の所有者が知れないとき、その他買収令書の交付をすることができないときは、命令の定めるところにより、同条二項各号に掲げる事項を公告して、令書の交付に代えることができるものとされているのであつて、その公告の内容は買収令書の記載内容と同一であるべく、少なくとも、(一)買収すべき農地の所有者の氏名または名称および住所、(二)買収すべき農地の所在、地番、地目および面積、(三)対価、(四)買収の時期、(五)対価の支払の方法および時期の記載が必要とされ、その公告は、都道府県条例の告示と同一の方法によるべきものとされているのである(自創法施行令三七条)。

本件において、当事者間に争いのない事実関係のもとに原判決の確定するところによれば、被買収者たる上告人に対して買収令書の交付がなく、自創法九条により、その交付に代えて公告がされたむのであるが、処分庁である愛知県知事は、単に「農地の所有者不明その他の理由で買収令書の交付できないものを別冊のとおり公告する。」と愛知県広報に掲載したのみで、その別冊なるものは公告されず、また、「買収内容の原本は農地部に保管しあり。」として、買収物件、被買収者の氏名等個別的な細目はなんら表示されなかつた、というのである。

これによると、前記法定要件のほとんどすべてを欠くことが明らかであつて、かかる公告によつて本件土地に対する買収の効力を生ずべきいわれはないものといわなければならない。しかるに、原判決が、右程度の広報の記載および買収計画が公告され被買収者被買収地等の細目が相当期間縦覧に供されていることを理由に、右公告によつてされた本件買収処分を無効でないとしたのは、前記法条の解釈適用を誤つたものというほかなく、論旨はこの点において理由があり、原判決は、その余の点につき判断するまでもなく、破棄を免れない。

以上、本件に現われた事実関係のもとにおいては、買収令書の交付に代えてされた公告がその効力を生せず、本件買収処分は無効と解すべきであるが、原審においで被上告人側より時効取得の抗弁が提出されており、この点についてさらに審理の必要があるので、本件を原審に差し戻すべきものとし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官下村三郎は退官につき評議に関与しない。

(裁判官 坂本吉勝 田中二郎 関根小郷 天野武一)

上告理由〈省略〉

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